映画「アバター」の山のモデルも 新旧織りなす中国湖南省の旅──写真家・倉谷清文(四)

桃花源景勝地

                                             桃源郷の村

 長沙を離れ常徳市桃源県の桃花源に向かった。

 中国では誰もが知っている昔話で、陶淵明が1600年前に著した詩「桃花源記」がある。昔、道に迷った武陵の漁師が谷川を遡り、桃林の奥に光の差す岩穴を見つける。そこを抜けると美しい風景が広がる村があった。村の人々は世の戦乱も知らず、平和に暮らしていた。数日後、自分の家に帰った男は再びその村の入り口を探したが見つけることができず、後に続く誰もが見つけることが出来なかったという。

 その桃花源記のモデルになった村が桃花源である。

 2001年、国家4A級景区に指定された桃花源は国内からの観光客も多い。村の桃花洞の洞窟を抜けるとまだ青い稲穂が揺れる水田、そこを流れる小川が目に入ってきた。正直なところ日本の田舎のどこにでもみられる風景で少しがっかりした。

 のどかな小径をカメラ片手に歩きつつ、ふと考えてしまった。桃花源記の話を聞くとそこがまるで夢のような仙境だと思い込んでしまう。しかし、それは俗界から見た世界である。この場所が平凡に見えるということは俗界が平和であるということだ。多民族であり、長く戦乱の続いた歴史のある中国では、桃源郷に夢見た思いは強いのかもしれない。この桃花源が再び本当の仙境になってはいけないのだ。

(写真・文/倉谷清文)