映画「アバター」のハレルヤ・マウンテンのモデルとなった乾坤柱
上海を経由して長沙黄花国際空港に着く頃にはすっかり陽が暮れていた。さほど大きな空港ではないが、緩やかに波打つ屋根はネオンブルーのライトで縁取られ、真っ赤な長沙という文字が夜空に浮かび上がりなんとも幻想的に見える。
上海、北京、そして近年の深センなどの沿岸の大都市だけでなく、ここ数年、中国の内陸の都市でも急速な発展が続いている。日本にいると中国人の爆買いやマナーの問題などマイナスのイメージを伝えるニュースばかり目に付くが、そんな国民性だけならこんな急激な経済成長はないだろう。その変化はどこにあるのか知りたくなった。
中国第二の淡水湖、洞庭湖(どうていこ)の南岸に位置することから名付けられた中国の湖南省を訪ねた。湖南省は日本の11の都市と姉妹都市の関係を築いており、日本との交流も深い。首都機能を果たす省都は長沙で、その名の歴史は古く紀元前の楚の国に属していた頃から残っている。
毛沢東出生の地湖南省
中国四大書院の一つ岳麓書院の大門
水源に恵まれた湖南省は水稲栽培で発展してきた、中国国内でも有数の米産地である。湖南省四大河川と言われる湘江(しょうこう)、資江(しこう)、ゲン江、レイ水が洞庭湖に流れ込む。
長沙市を縦断する湘江を渡り岳麓山の麓にある岳麓書院に向かった。北宋開宝9年(976年)に潭州太守の朱洞が設立し、古代の伝統的な書院建築が今でも保存されている。中国の歴史的に有名な四大書院の一つで、宋、元、明、清の各時代を経て、現在は湖南大学として旧跡を踏襲しつつ拡張されている。その長きにわたり続く学脈から千年学府と言われ、朱熹、王陽明など多くの人材を輩出している。
書院は大学の敷地内ということもあり、観光客だけでなく、学生の姿も多く見られる。文化財的な建築物でありながら門戸を開き、偉大な先人を身近に感じさせる岳麓書院の存在はまさに千年学府の所以に繋がっているのだと思えた。
中国建国の父、毛沢東も若き頃学んだところである。ここでの教えは彼に大きな影響を与えたという。
長沙市は2016年から2018年における人口増加が20万人、なかでも大卒の学歴を持つ若者の人口増が著しい。経済発展の要因の一つに、こういう学府が置かれた土地柄であったこと、また、上海や北京などに比べ生活コストが低く、住みやすいことが若者の定住を後押ししていることにあるという。
(写真・文/倉谷清文)