中国で紙の発明前に文字を書いて記録していた竹簡や木簡10万枚余りを所蔵し、総合的な整理、研究、展示を行う世界唯一の専門博物館である長沙簡牘博物館(湖南省)がこのほど、古文書の解読研究で多くの実績がある北京の故宮博物院と協力して「故宮研究院長沙簡牘研究センター」を設立、貴重な歴史資料の解読と研究が一層進むことが期待されている。
同博物館や中国メディアによると、木簡や竹簡は中国では簡牘と総称され、20世紀初めからこれまでに全土で30万枚余りが出土したとされるが、その内20万枚近くは湖南省で発掘されたもので、同博物館では長沙市で発掘された三国時代の物を中心に10万枚余りを所蔵している。
同博物館が所蔵するのは、1996年に長沙市の日系スーパー「平和堂」の建設工事中に見つかった古井戸の中から発掘された「呉」時代の10万枚余り、さらに2003年に近くの別の古井戸から見つかった「西漢」時代の2000枚余りなどで、司法、財政、徴税、戸籍などに関する行政文書が中心。いずれも官衙があったと思われる場所で、何らかの理由で井戸の中に廃棄されたとみられるが、当時の政治、経済、軍事、社会、文化、地理、税制、官制などを具体的に知ることができる貴重な資料だ。
木簡や竹簡は、水分を含んだ泥の中に埋もれていたため、発掘後は1本ずつ慎重に清掃した上で、脱水、修復、防腐など複雑な工程が必要。処理が済んだ物は写真撮影を行った上で解読して分類、透明板に密封して保存し、これまでに文字を読み取ることができた約8万本の写真集を出版した。この他にまだ、状態が悪く文字が消えるなどしてそのままでは読みとれない約5000本があるため、故宮博物院の専門家らの協力を得て赤外線とコンピューターを組み合わせ解読や分類などを進める、という。
同博物館では、これまで3回の国際学術シンポジウムを開いたほか、日本や韓国、米国などの研究者と学術交流会を開催、「長沙走馬楼三国呉簡」、「長沙呉簡研究」、「長沙簡帛研究国際学術シンポジウム論文集」など専門書や学術論文として公開出版してきた。同センター設立で赤外線による解読と整理や他の場所で出土した物との対比などが進めば、さらなる発見や研究成果が出ることが期待される。
同博物館は、大量の木簡や竹簡の処理保存で培われたノウハウを他の博物館や研究機関などに伝授しているほか、市民に向けた展示や教育にも力を入れている。一般の参観は無料で、実物や模型、写真などを組み合わせ、竹簡や木簡の作り方、各時代の特徴、解読結果を基にした当時の社会や経済などについても分かりやすく展示している。市民や学生、児童向けの講座や木簡作成の体験会なども定期的に開き、社会に開かれた博物館を目指しているという。
(2019年09月12日付「チャイナ・ウォッチ」掲載)