主要ポイント
- アルツハイマー病に特徴的な脳領域の変性を正確かつ確実に検出する血液検査は、より容易かつ正確な早期発見および診断への移行を示唆しており、高価で侵襲的、また必ずしも利用しやすいとは限らない現行法に取って代わる可能性がある。
- 一次診療や認知症専門クリニックを受診した認知症状のある患者における血液検査によるアルツハイマー病の検出精度は、約90%であった。本臨床研究において、血液検査を用いない場合の一次診療医の精度は63%、専門医は73%であった。
- 血液検査が承認されれば、アルツハイマー病の臨床試験リクルートが強化され、アルツハイマー病評価の待機時間が短縮される可能性がある。
フィラデルフィア(米国), 2024年7月29日 /PRNewswire/ -- アルツハイマー病の検出精度に優れた血液検査が診察室で用いられる日が近づくなか、フィラデルフィアにて開催されたアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference® )、(英文略称:ACC®) 2024およびオンライン会議で本日報告されたデータによれば、新たな臨床研究によって診断精度が飛躍的に向上し、臨床研究への参加や治療が明確かつ迅速することが示唆されました。
2024 アルツハイマー病の実態と数値(2024 Alzheimer's Disease Facts and Figures)報告書によれば、認知症はしばしば過小診断されており、臨床医によって診断されたとしても、多くの人は自分の診断に気づいていない、または知らされていなということです。アルツハイマー病の血液検査によって臨床医の診断精度や信頼性を大幅に向上し、よりアクセスしやすく、より強化されたコミュニケーションに向けたプラットフォームの提供が可能であることが、臨床研究によって実証されています。
脳内のアルツハイマー病関連の変性を特定する最も有望な血液検査は、リン酸化タウ(p-tau)タンパク質を評価するものであり、患者が認知機能障害の徴候を示す前に蓄積する可能性があるアルツハイマー病の生体指標です。特定のマーカーであるp-tau217の経時的な増加は、認知機能の低下や脳の萎縮と相関関係にあります。このp-tau217検査は脳内のアミロイド斑の可能性も予測するものですが、アミロイド斑はアルツハイマー病のもう一つの生体指標であり、最近承認された治療法が標的とするものです。
アルツハイマー協会の最高科学責任者兼医療担当責任者を務めるMaria C. Carrillo博士は、「血液検査は、(a) 精度が90%を上回っていることが大規模集団で確認されること、(b) より広範に利用できるようになることにより、臨床試験のリクルートやアルツハイマー病の精密検査を改善し、場合によっては再定義する可能性があります。現時点においては、一次診療および二次診療の医師は、アルツハイマー病の診断には認知機能検査と血液検査または他の生体指標検査を組み合わせて使用する必要がありますが、血液検査には、早期診断の精度を高め、より良い結果を得るためにできるだけ早期にアルツハイマー病治療にアクセスする機会を最大化できる可能性があるのです」と述べました。
血液検査の採用を検討する際には、アルツハイマー病協会の「アルツハイマー病における血液生体指標の適切な使用に関する推奨事項(Alzheimer's Association Appropriate Use Recommendations for Blood Biomarkers in Alzheimer's Disease)」に慎重に従わなければなりません。協会は、医療従事者がアルツハイマー病の血液検査を臨床に採用する際の助けとなるよう、臨床および主題の専門家パネリストを招集し、アルツハイマー病における血液生体指標の使用に関する臨床診療指針の作成を主導しており、そのことはAAIC 2024にてプレビューされることになっています。
血液検査によって改善可能な一次診療とアルツハイマー病専門医における診断
AAIC 2024で初めて報告された大規模な研究によれば、この血液検査によって従来の診断法を用いた一次診療医と専門家の両方よりも、アルツハイマー病をより正確に検出できることが示されました。
この研究では、1,213人の患者がPrecivityAD2検査(通称「APS2」)を受けています。この検査は、(1) 血漿中のリン酸化タウ217と非リン酸化タウ217の比率(通称「%p-tau217」)と、(2) 2種類のアミロイド比率(Aβ42/Aβ40)を組み合わせて用いるものであり、本研究において臨床医を有意に上回りました。
- 認知症外来を受診した698人の患者について、APS2検査では約90%の精度でアルツハイマー病が診断され、専門医による診断精度は73%であった。
- 一次診療で診察を受けた515人の患者についても、APS2検査の精度は約90%となっており、一次診療医のアルツハイマー病診断精度は63%であった。
研究者らは、一次診療医が診察する高齢患者によく見られる腎臓病などの併存疾患を持つ患者についても、APS2検査精度が優れていることが分かりました。
スウェーデン南部のルンドにあるルンド大学のSebastian Palmqvist医学博士(筆頭著者)は、「注目すべきは、これらの結果は、一次診療部門から分析用に隔週発送された血液試料の検査結果であり、通常の臨床診療と大差ないことです」と述べました。また、同ルンド大学の上級著者、Oskar Hansson医学博士は、「一次診療を受けた高齢者群には、p-tau217の濃度に影響や変化を呈する症状が見られることが多いことを考慮すれば、これらの結果は非常に印象的でした。」
「私どもは、この結果をアルツハイマー病血液検査の世界規模での臨床実施に向けた大きな一歩と捉えています」述べました。「これは、診断精度向上に向けたアルツハイマー病生体指標の必要性を強調するものです。次の段階には、アルツハイマー病血液検査の臨床現場での使用法に関する明確な指針の確立が含まれますが、このような検査はまず専門医療で実施してから一次医療で実施することが望ましいと考えます。なお、本研究は現在も行われています。
AAICで報告された研究は、アルツハイマー病協会から一部の資金を提供されており、同時に米国医師会雑誌(Journal of the American Medical Association)誌に掲載されました。
血液検査で臨床試験の対象となる認知機能の低下が無い人を特定できる可能性を示す研究結果
アルツハイマー病の早期段階にある人々を臨床試験に参加させることで、軽微または無症状の場合に有効となる可能性のある治療法の特定に役立つ可能性があります。AAIC 2024で発表された研究によると、p-tau217血液検査は、脳内にアミロイドβ斑が存在する可能性が高く、認知機能の低下が見られない患者を特定する簡便かつ正確な選択ツールになり得ることがわかりました。
研究者らは、血漿p-tau217とアミロイドβのPET画像または髄液試料を入手可能な、10件の研究について、認知機能の低下が見られない2,718名の試料を分析しました。その結果、血漿p-tau217は、認知機能の低下が見られない人がアミロイドPETスキャンやCSF生体指標によってアミロイドβ病変が存在する可能性を(79~86%の範囲で)予測できることが明らかになりました。アミロイドβのCSFまたはPET検査の結果を血液検体が陽性であった後の分析に加えた場合、陽性予測が90%以上に改善し、血漿p-tau217検査による脳内アミロイドの存在の信頼性が向上します。
この研究の筆頭著者であり、ルンド大学の准研究員を務めるGemma Salvadó博士は、「この数値が維持され、他の独立系研究室でも再現性が確認されれば、この方法はアルツハイマー診断における腰椎穿刺とPET検査の必要性を、80%または90%減少させる可能性があります。私どもの結果は、血漿p-tau217陽性だけで、多くの臨床試験において、認知機能の低下が見られないアミロイド陽性の被験者の選択に十分であることの裏付けとなるものです」と語りました。
アルツハイマー病の診断および治療の待機時間を劇的に短縮する可能性のある血液検査
アルツハイマー病の承認済みの治療法は、この疾病による軽度認知障害または軽度アルツハイマー病性痴呆症状を呈する人に適応となっており、脳内のアミロイドβの生物学的所見が確認されることが条件です。そのため、病気の経過のできる限り早い段階で、奏功する可能性のある人々を特定することが重要です。現在はアルツハイマー病専門医の数が限られているため、PET画像診断や髄液分析に必要な専門知識へのアクセスにばらつきがあり、平等とは言えない状況のため、アルツハイマー病診断に向けた包括的な検査完了までの待機時間が長くなるケースが散見されます。
AAIC 2024で発表された研究によれば、一次診療で高性能血液検査を使用することにより、潜在的なアルツハイマー病患者をより早い段階で発見し、専門医が新しい治療の可否を判断できる可能性が示唆されました。
研究者らは、確立された予測モデルを用いて、アルツハイマー病専門医数が限られていること、および高齢化の進展の両方を考慮し、治療対象となる患者の待機時間を予測しました。本モデルには、2023年から2032年までの米国の55歳以上の人口の予測と、2つのシナリオの比較が含まれています。1つめのシナリオは、一次診療の臨床医が、簡単な認知機能検査の結果に基づいて、患者をアルツハイマー病の専門医に紹介する否かを決定するというものでした。2つめのシナリオは、高性能血液検査の結果も検討対象とし、一次診療で早期認知機能障害ありと判定された患者に血液検査を実施し、専門医への紹介は検査結果に基づいて行なうとするものでした。
本モデルによれば、2033年までに一次診療医が簡単な認知機能評価のみで専門医に紹介した場合、アルツハイマー病の新しい治療対象となるかどうかの判断に平均6年(70ヶ月)近く待つことになります。仮に血液検査でアルツハイマー病の可能性を除外したとすると、専門医の診察を必要とする患者数がはるかに少なくなるため、アルツハイマー病患者の平均待機時間は13ヶ月に短縮される可能性があります。研究者らはまた、一次診療の段階で血液検査と簡単な認知機能評価をアルツハイマー病診断の可能性を除外するために使用した場合、アルツハイマー病専門医の需要が減少することで余裕が生まれ、CSFまたはPET検査が利用できるようになるため、新しい治療法の適格性判断に要する待機時間は平均6ヶ月未満に短縮されるであろうとしています。
本研究の筆頭著者であり、南カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブレイン・ヘルス・オブザーバトリーのディレクターを務めるSoeren Mattke医学博士・理学博士は、「私どもの結果は、治療法に合致する候補者の特定に血液検査を用いることで、早期アルツハイマー病患者の治療に大きな違いをもたらす可能性があることを示唆しています。現在のところは、診断に時間がかかるため、対象となる患者が治療対象からこぼれ落ちている状況です。使い勝手の良い血液検査は、この問題を解決するのに役立つでしょう」と述べています。
アルツハイマー病協会国際会議®(AAIC®)について
アルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference®、英文略称:AAIC)アルツハイマー病やその他の認知症に焦点を当てた世界中の研究者が集まる世界最大の会議です。アルツハイマー病協会の研究プログラムの一環として、AAICは認知症に関する新たな知識を生み出し、活気に満ちた研究者コミュニティを育成する促進剤としての役割を果たしています。
AAIC 2024ホームページ: www.alz.org/aaic/
AAIC 2024ニュースルーム: www.alz.org/aaic/pressroom.asp
AAIC 2024ハッシュタグ:#AAIC24
アルツハイマー病協会®について
アルツハイマー病協会(Alzheimer's Association®)は、アルツハイマー病のケア、支援、研究に取り組む世界的な任意団体です。同社の使命は、世界的な研究を加速させ、リスク軽減と早期発見を推進し、質の高いケアとサポートを最大化することで、アルツハイマー病をはじめとするすべての認知症を撲滅する道をリードすることです。同社のビジョンは、アルツハイマー病をはじめとするすべての認知症®のない世界を実現することです。ウェブサイト:alz.orgをご覧いただくか、800.272.3900までお電話ください。
- Sebastian Palmqvist医学・哲学博士ら一次医療と二次医療におけるアルツハイマー病の血液生体指標の将来性のある使用の評価。(資金提供者:アルツハイマー病協会、National Institute of Aging)
- Gemma Salvadó博士ら認知機能の低下が見られない参加者におけるアミロイドPET陽性検出のための事前検査法としての血漿p-tau217の使用:複数施設での研究。(資金提供者:アルツハイマー病協会(Alzheimer's Association)、欧州連合(EU)のホライズン 2020(Horizon 2020)研究・革新プログラム(Marie Sklodowska-Curieの指導による)、Alzheimerfonden、戦略的研究領域マルチパーク(Strategic Research Area MultiPark)
- Soeren Mattke医学・理学博士ら米国における疾患修飾性アルツハイマー病治療の適用判定に要する待機時間に対する高性能血液検査の影響(資金提供者:C2N Diagnostics社)
*** AAIC 2024の報道発表には、以下の抜粋で報告されたものと一致しない最新のデータが含まれている可能性があります。
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