【北京2023年9月12日PR Newswire】*人民日報からのリポート:
劉慈欣(Liu Cixin)氏:私は科学の驚異に深く触発され、空想科学小説(SF)創作の領域に足を踏み入れました。
子供の頃、人類初の月面着陸のニュースを読んだときの高揚感を今でも鮮明に覚えています。長年にわたり、私は中国人宇宙飛行士が宇宙を遊泳する無数のシナリオを思い描いてきました。今では、宇宙船「神舟」が頻繁に打ち上げられ、中国の宇宙飛行士が宇宙任務に従事するのをテレビで見ると、時々非現実的な感覚に圧倒されることがあります。これは実際に起こっていることなのでしょうか?
近年、中国のSF産業は急速な発展を遂げ、広く注目を集めています。これは、航空宇宙産業の進歩やインターネット技術の広範な応用など、社会全体の進歩なしには起こりえませんでした。私たちは急速な近代化、工業化、デジタル化の真っ只中にいて、機会や希望と同時に苦難と課題も抱えています。私たちは科学の驚異に驚嘆し、科学技術が人類により良い生活をもたらすと期待しています。これらはすべて、SF産業繁栄の豊かな基盤を提供します。
▽科学はSFの力の源
SFは現代の科学技術革命の成果です。19世紀初頭、科学技術の進歩は産業革命を促進し、人々の未来への想像力と願望を触発しました。こうしてSF文学が誕生したのです。
1920年代から1960年代にかけて、人類は蒸気の時代から電気の時代に入り、科学技術の進歩は、世界を変える圧倒的な力を再び実証しました。相対性理論や量子力学に代表される物理学の革命は、人々に全く新しい地平をもたらしました。人々の科学の力への憧れと未来への希望はこの時代に最高潮に達し、SF作品は隆盛の時代を迎えました。
SFは科学に基づいて、現実世界とは異なるSFの世界を作り出します。SF作家は未来の世界を想像しますが、予測することは目的ではありません。SF本の品質を評価する場合、その予測が将来的に実現するかどうかはあまり重要ではありません。私を含め多くのSF作家は、ストーリーを語るためにあえて実現しそうにない設定を選び、斬新な視点から科学の不思議や驚異を描き、それによって人々は科学の美しさを体験することができるのです。
200年の発展を経て、すでに無数のSF作品がさまざまな形で未来を構想しており、SFが今後も創造的であり続けるかどうか疑問視されることがあります。私の意見では、SFの創造性は無限です。伝統的なテーマでさえ、描き方次第で新たな命を吹き込むことができます。
例えば、古典的なSF短編小説「A Walk in the Sun(日の下を歩いて)」では、月面への激しい不時着の唯一の生存者が描かれています。生き延びるために、翼のようなソーラーパネルで日光を浴び続ける必要があり、月面を歩き続けなければなりません。これは古典的な月面着陸をテーマにした単純明快な物語ですが、驚くほど巧みに書かれています。私の見方では、中国の航空宇宙技術が進歩し続ける中、エンジニアリングチームが宇宙発電所や月面基地を建設する様子を「マイクロリアリズム」のアプローチで描けば大ヒットになるでしょう。
科学の進歩に伴い、常に新しい分野が出現し、SFの新たなテーマを提供しています。物理学、宇宙論、分子生物学などの高度に発達した現代科学分野は、より不思議な、より広範で、より予測不可能な宇宙と自然を示し、SF創作の豊富なリソースが含まれています。しかし、それらはまた、現在の基礎科学を理論的により複雑にし、数学的表現をより難しくしており、専門家以外には理解するのが困難です。これらのリソースをどのように最大限に活用するかは、SF作家の大きな課題であると同時に、SF文学発展への希望でもあります。
未知のものに直面して、SFは常に新鮮で独創的で驚くべき概念を提示し、読者の関心を維持しなければなりません。これを達成するために、SF作家は常に若い考え方を保ち、想像力を時代と同期させ続ける必要があります。
▽科学的方程式から美しさを解き放つ
人々の想像力を広げることはSFの重要な使命です。極めて純粋なSF映画として有名な「ゼロ・グラビティ(Gravity)」は、SF創作でクリエーターに最も重要なことは宇宙に対する詩情を持つことであることを示しています。優れたSF作品は、大海の視点から一滴の水を私たちに提示し、人々を限られた視野から解放し、現実を超えたもっと広い世界を体験させます。
科学はSFの力の源ですが、科学の美しさは科学方程式の中に閉じ込められていることが少なくありません。一般の人々がその輝きを垣間見るには、大変な努力が必要です。しかし、ひとたびそれが提示されると、私たちの魂に与える影響と浄化の力は巨大で、他の文学ジャンルでは達成することが困難です。SFは科学の美しさへの架け橋であり、この美しさを方程式から解き放ち、一般の人々に提示します。
SFの成功は、作品の圧倒的な想像力の魅力が大きな決め手になります。現代宇宙論のビッグバン理論は壮大で畏怖の念を抱かせるものです。生命の進化の長い旅は、ねじれていてロマンチックです。一般相対性理論における時空の詩的な見方、量子物理学における魔法のような小宇宙…。科学が明らかにする世界観は、私たちの想像をはるかに超えています。作家はどのようにして科学のこのような美しさを表現できるのでしょうか?
「Macro-detail(マクロディテール)」はSF文学に特有のテクニックです。どの物語にも詳細が必要ですが、SFでは詳細の扱いが進化しました。1編の短編小説が想像できます。これを「Singularity Fireworks(シンギュラリティーの花火)」と呼びましょう。そこでは超意識の集団を描きますが、この集団にとっては「ビッグバン」は花火大会にすぎません。この作品は、花火の前後の2人の会話や感情をわずかな言葉で描きながらも、ビッグバン以来の宇宙の歴史を時空的に網羅し、私たちの宇宙を超えた超宇宙のビジョンを展開します。私の考えでは、この種の「マクロディテール」がSF文学の特徴と利点を最もよく体現していると思います。
SF創作に携わって以来、私は科学技術の進歩から物語のリソースを探し求め、取るに足らない存在の人間と壮大な宇宙との直接的かつ具体的なつながりを科学的原理に基づいて表現することに努めてきました。初め、宇宙は原子より小さく、すべては1つでした。これは、宇宙の小さな部分と壮大な全体との間の自然なつながりを決定します。宇宙は現在の規模にまで拡大しましたが、このつながりは依然として存在しており、宇宙の進化と変化はあらゆる人間の人生と運命に密接に関係していると私は信じています。物語を作るとき、私は常に人間と宇宙の間の具体的なつながりについての複数のシナリオを想像し、この想像を魅力的で気持ちを高揚させる物語に転換するよう努めています。
もちろん、SFは常に未来や想像を描いているわけではありません。それは現在と現実も含みます。私の小説「三体(The Three-Body Problem)」を例に挙げましょう。第1部では読者の想像力を掻き立てるため、架空の過去を強いリアリティーで描きます。第2部は現実から想像への長い旅です。第3部は純粋なSF小説であり、「SFファン」の雰囲気が際立っています。現実から始まり、遠く離れた霊妙な世界へ向かうのは、伝統的なSFの典型的な構造であり、中国のSF読者が慣れ親しんだ現実から未来へという物語形式でもあります。
▽革新的発展のチャンスをつかむために
SF映画は私に大きな影響を与えました。私がストーリーを語る方法と視覚的なイメージを構築する方法は、いずれもSF映画の影響を受けています。映像は強力であり、SFの想像力豊かな概念の多くは、視覚的な手段を通じてのみ表現できます。この点で、映画は活字に比べて大きな優位性を持っています。
しかし、出版コストが低く、読者が比較的固定されているため、著者には創作の余地がより多くあり、より革新的なアイデアやストーリーテリングのテクニックを模索することができます。SF映画は、より広範囲で多様な観客の注目を集めるために競う必要があるため、製作費がはるかに高くなります。映画では、革新的な形式と内容が観客に受け入れられるかどうかを考慮し、芸術的表現の均衡点を見つける必要があります。
近年、SF文学と映画はそれぞれの強みを発揮しています。一部のSF小説の映画化やテレビシリーズ化により、SFがより幅広い観客に届けられ、SF産業の成長を促しました。今日のSF文学をさらに発展させるためには、より多くの人材と作品が現れるように、中国のSF作家の層を拡大する努力が必要です。SF映画やテレビシリーズの発展には、新世代の脚本家、監督、プロデューサーが創作に参加する機会を増やすために、人材と経験のプールを増やす必要があります。さらに、国際協力を強化し、より成熟した製作経験を蓄積することが極めて重要です。
SFの発展を促進することにより、文学理論と評論に対する新たな要件が生じます。例えば、「マクロディテール」のテクニックやその他のSF創作手法には、意識的な表現手法を形成するために理論的な洗練が急務となっています。SF批評も時代に合わせて、新しい作品や現象を見るために時代遅れの視点を使うという制約から解放される必要があります。革新的な理論と鋭く活気に満ちたコメントは、間違いなくSF創作の発展を促進するでしょう。
SF作品は、若者のSF想像力を養い、創造性と革新能力を刺激するのに貢献します。SF教育は、教科書にSFコンテンツを追加したり、オンラインのSF作品を通じて子供たちの興味を育てたりすることで、学校教育に適切に導入できます。かなりの数の若い読者や視聴者がSFを楽しみ、それによって意識的にSFと科学を探究し始めるとみられています。中国のSFは大きな勢いと可能性を示しています。私たちはこの機会を捉えてSF産業を強化しなければなりません。
(この記事は劉慈欣氏へのインタビューに基づいてDong Yang氏が編集したものです。)
劉慈欣(Liu Cixin)氏は1963年、中国北部の山西省陽泉の出身。学士号を取得した上級技術者であると同時にSF作家であり、China Writers Association(中国作家協会)会員です。代表作に長編小説「Supernova Era(超新星紀元)」、「Ball Lightning(球状閃電)」、「The Three-Body Problem(三体)」3部作や、短編小説「The Wandering Earth(さまよえる地球)」、「The Village Teacher(郷村教師)」、「Full Spectrum Barrage Jamming(全頻帯阻塞干擾)」などがあります。「三体」3部作は中国SF文学のマイルストーンとして広く認められています。
Short fiction "The Wandering Earth" written by Chinese science fiction writer Liu Cixin (File photo)